連載:「山登りを考える(12)」については、前回に引き続いて「山の食糧」について考えてみたい。今回は、日帰り登山及び山小屋やテント泊での行動食、登山中の食事や水分の採り方、非常食などについて述べることとする。

          ある日の冬山日帰り登山での昼飯:サンドイッチ・バナナ・コーヒー

 前回に掲載した「山の食糧」では「朝食」と「夕食」について書いた。・・・となると、次なるテーマとしては、「昼食」について述べなければならないだろう。そこで、まずは日帰り登山での「昼メシ」について書きたいと思う。

 近年、われわれ登山者の昼メシを大きく変えたのは、何と言っても「コンビニエンス・ストア」であろう。左は日本のコンビニの草分けでもある「セブンイレブン」だが、同社の第1号店が開店したのは、今から38年前の1974年のことだ。その後、各社が相次いでコンビニ業界に参入し、現在では全国に44000店以上まで増加。かなりの田舎町に行っても、車で自宅~登山口まで行く途中で、弁当や飲物などを購入することができるようになった。

 以前であれば、前日に予めスーパーで買い物をしておいたり、家族に頼んで朝から握り飯を作って貰ったりしたものだが、そんなことはもう過去の話になってしまった。・・・何しろ、コンビニは年中無休が売り物だし、また、多くの店が早朝7時開店ないしは24時間営業なのだ。
 あとは、個人の好みに応じて、オニギリにしようがサンドイッチにしようが自由だし、それに加えてお菓子とペットボトル入りの飲み物を買えば十分である。強いて注意点を挙げるとすれば、暑い夏にはオニギリや弁当の中味は腐りにくいものを選ぶこと、また、寒い冬山だとオニギリが凍ることがあるので、米飯類よりもパン類の方が望ましいこと、・・・などを頭に入れておくべきであろう。
  

 <昼メシか行動食か>
 山の頂上に立ったあと、青空のもとで仲間と一緒に思い思いの昼メシを食べるのは実に楽しいものだ。しかし、山ではそんな好条件にいつも恵まれるとは限らない。従って、ある程度ハードな登山をやる場合には、所謂「昼食」という概念ではなく、「行動食」という考え方をすべきであると思う。

 
 雨の日の登山とか、冬山登山をイメージして頂くと分かりやすいと思うが、例えば吹雪の中で、昼食のために一定の休憩時間をとることはなかなか難しい。そこで、行動中とか小休止した時に、適当な食糧をこまめに食べてエネルギーを補給することにならざるを得ない。
 勿論、天候に恵まれた好条件の時には、ゆっくりと「昼メシ」を食べても一向に構わない訳だが、本来、行動中に消費したエネルギーは、空腹になる前に少量づつ補給するのが最も望ましいことでもある。

 ・・・そうした意味からも、以下では、敢えて「昼メシ」とは言わずに「行動食」という表現を使いたいと思う。

 <行動食の条件>
 行動食の条件だが、まず第1に「消化吸収が良くて早くエネルギーになるもの」・・・即ち、即効性がある炭水化物(糖質)系の食品が最適だといえる。ただし、炭水化物はブドウ糖に変わるのは早いものの、エネルギーとしては精々2~3時間しか持たないので、一度に沢山食べるよりも、空腹を感じる前に少しづつ食べるのが良い。
 次に、「のどが渇いたり、疲れて食欲がない時にも食べやすいもの」、第3には、「腐ったり傷んだりしにくくて、あまり嵩張らないもの」・・・といったことを考えながら自分の好みの食品を選ぶことになる。以下に、代表的な行動食の例をご紹介する。

 <行動食の代表例>

  以前は乾パンやフランスパンなどが主流だったが、もう少し食べやすいものがベターである


    カロリーメイト・タイプのスティック・バーや、ドライフルーツ類、干し柿・干し芋なども良い


           ナッツ類や甘納豆、最近は日持ちのする大福やドラ焼きもある

 行動食と言えば、新田次郎の小説「孤高の人」の主人公・加藤文太郎の食糧が今でもお手本になる。例えば、「甘納豆」や「煎った小魚」などを、何時でも食べたい時に食べられるようにポケットに忍ばせていたり、「揚げ饅頭」や、お湯に浸すだけで食べられる「薄切り餅」なども自ら工夫したということだ。
 なお、左は竹で編んだケースだが、バナナや菓子パンをはじめ、ラーメン類など形が傷み易い食品を収納するのに好適なので、ぜひ利用されることをお勧めする。

 <ラーメン・うどん・スープ類>

                ラーメン、うどん等の麺類や各種のスープ類

 日帰り登山の場合にはガスコンロとコッフェルを持参するのがやや面倒ではあるが、それ程の大きな負担にはならないので、特に寒い日には、ラーメンやうどんなどの温かい麺類が食べれるのは悪くない。また、沸かしたお湯でスープやコーヒーなどが飲めるのが良い。
 装備として留意すべきことは、ガス・カートリッジとコンロ・ヘッドが収納できるタイプのコッフェルを選ぶのが良く、また、風が強い日にはアルミ製の防風カバーがあると便利である。

 <非常食について>
非常食の条件は、行動食と同様に消化吸収が良くてすぐにエネルギーになりやすいことが重要だが、更には、携行しやすく、水や火を使わずにそのまま手軽に食べれるもの。
 ・・・左はそうした観点から選んだ、羊羹、ドライフルーツ、チョコレート、甘納豆、ぶどう糖、飴などをポリ袋に入れた「レーション」で、そのまま行動食としても使える。
 実際に非常事態で使うことは滅多にないので、保存性の良いものを選び、時々チェックして新しいものに取替える必要がある。

 <水分補給について>
 最後に登山中の水分補給という問題について触れておきたい。・・・このテーマについては、「山登りを考える(8):登山装備(2)」で私見を書いているが、重要な問題なので、前回とはやや別の観点から改めて述べておきたいと思う。

 我々の身体は約7割が水分で出来ており、体重の5~6%の水分が失われると、運動機能が著しく低下し、いろいろな障害が生じ始める。(20%を失うと死に至るといわれている) ・・・つまり、体重60Kgの人が5%=約3リットルの水分を喪失すると熱射病などの症状が発生すると考えられる。
 汗の量は個人差があり、当然ながら必要な水分補給量も違ってくるが、特に夏山では大量に汗をかいて脱水症になりやすいので、十分な水分補給が必要となる。


        ポカリスエットなどのスポーツ飲料と、エネルギー添加したゼリー飲料など

 大量の汗をかくと、水分だけでなく、塩分やミネラル(カルシウム、ナトリウムなど)も同時に排出されて体内のミネラルバランスが崩れる。・・・本当に喉が渇いた時には真水が一番旨いのは確かだが、成るべくならポカリスエットなどのスポーツ飲料の方が真水よりもベターだと言える。
 なお、ミネラルバランスが崩れると足がつったりするが、その時には「梅干し」が有効である。種を抜いた干し梅とスポーツ飲料を飲んで10分ぐらい待てば大概は症状がほぼ改善するはずだ。

 <行動中の水分補給に関する私見>

 水分不足の目安は尿の色の濃さで分かる。十分な水があるキャンプ地や山小屋では、意識的にお茶などの水分をたっぷりと摂取するように心掛けるべきで、健康面からみても、特に就寝前と朝の起き掛けにコップ1杯の水を飲むのが良いとされている。また、高山では十分な水分を摂取して新陳代謝を良くすることが高山病の予防にもなる。
 一方、行動中における水分補給については、水場で補水できる時を別とすれば、限られた水を如何に効率的に摂取するかが重要なテーマになってくる。

 行動中には、喉が渇いてもやたらに水をがぶ飲みしないこと。・・・一度に沢山飲んでも体内に吸収されずに大半が汗になってしまうからだ。従って、喉が渇いたら少量づつ早目に水を飲むようにすべきである。
 水をがぶ飲みをしないためには、左写真のような「ハイドレードシステム」タイプの水筒が優れている。この水筒を使うと、ザックを背負ったまま喉をうるおす程度の水がこまめに飲めるので、結果的に無駄な水分消費量が少なくて済むことになる。
    ハイドレーション・システムの水筒

  現在のスポーツ医学では、「喉が渇いたら、身体が欲するだけの水分を十分に補給をすべきである」という考え方が常識になっている。しかしながら、かつての高校・大学山岳部の登山では、行動中、昼食時以外には水を飲ませなかった。・・・今にして考えると、非科学的で、余りにも精神論を重視し過ぎたことが当たり前のように罷り通っていたようにも思われる。

 ただし、「登山中における水分補給」という問題に関しては、必ずしもスポーツ医学の常識をそのまま受け入れがたい面がある。・・・というのは、登山の場合には、他のスポーツと違って何時でも水が手に入るという訳にはいかない。山での水は、それでなくてさえも重たい荷物に加えて、自から背負って運ばなければならない貴重品なのだ。更には、水を飲み過ぎるとバテを促進したり、体調を壊すといったことが現実に起るのも事実である。
 従って、行動中の水分補給は「成るべく少なく効率的に飲むべし」・・・というのが私の持論である。若かりし頃に鍛えられた非科学的な訓練のお蔭もあってか、今も登山中に余り喉が渇かないため、私の場合は暑い真夏でも、精々1リットル程度の水しか飲まないで済んでいる。


             <連載「山登りを考える」:バックナンバー>
 ・「山登りを考える(1):登山とは」      ・「山登りを考える(2):中高年登山」
 ・「山登りを考える(3):日本百名山考」  ・「山登りを考える(4):私の百名山」  
 ・「山登りを考える(5):山の遭難」     ・「山登りを考える(6):山の遭難(2)」
 ・「山登りを考える(7):登山装備」     ・「山登りを考える(8):登山装備(2)」
 ・「山登りを考える(9):日本の山小屋」  ・「山登りを考える(10):続・日本の山小屋」
 ・「山登りを考える(11):山の食糧」    ・「山登りを考える(12):山の食糧(2)」                  

# by masaok15 | 2012-05-26 16:40 | 山登りを考える

 暫らくお休みしていた連載:「山登りを考える」だが、今回と次回の2回にわたって「山の食事」というテーマについて考えてみたいと思う。・・・まず第1回目は、「山の食糧」というタイトルで、テント泊を前提とした今と昔との山の食糧比較、食糧軽量化に関する問題、更には山でのお勧め食材例・・・などに関して取り上げることとしたい。

        中国・二姑娘山登山(2010年)で日本から持参した約6日・2人分の食糧

 <山の食糧に関する基礎知識>

 昔から「腹が減っては戦が出来ない」などと言われる通り、どうやら、日本人は満腹感がないと力が十分に発揮できない身体に出来ているように思われる。これは、戦時の最前線でも米を炊いて主食にしていた日本軍の兵隊に限ったことではない。山登りにおいても正に同様であり、腹が減ってくると、「シャリバテ」といって途端に元気が出なくなってしまう人が結構多い。

 確かに、山登りというのはかなり過酷なスポーツ(肉体労働?)であり、1日8時間以上の歩行を伴うような登山の場合、3千キロカロリー以上のエネルギーが消費されるといわれ、通常の生活に比べるとはるかに多くのカロリー摂取を必要とする。
 「バテ」の主な原因はエネルギー不足に伴うスタミナ切れによるものだが、本来、登山中に摂取するカロリーの総量と満腹感とは別物のはずであり、空腹感から来る、所謂「シャリバテ」対策としては、日頃の食生活から変えて行く以外にはないだろう。 

 山の食糧計画を検討するにあたっては、まず「目的とする登山に見合ったエネルギー補給を考慮したカロリー総量と栄養バランスの食事メニューを考える」ことが基本となる。・・・ただし、本格的な冬山やヒマラヤ登山であればいざ知らず、実際の所、精々1週間程度の登山をするに及んで、いちいちそんなことを考えてはいられないだろう。ましてや、数日間の登山であれば、難しいことは抜きにして、日数分の適当な食糧と非常食(1日分)を持参すれば事足りるといえる。

 ・・・とは言うものの、山の食糧に関する基礎知識として、以下の程度は知っておくべきであろう。

(1)通常の登山に必要だとされる「3千キロカロリー」の3大栄養素別摂取比率は、①糖質:2000kcal(4kcal/g)、②脂質:600kcal(9kcal/g)、③たんぱく質:400kcal(4kcal/g)を目安にしたバランスの良い栄養摂取が望ましい。

(2)エネルギー源としては「脂質」が最も効率が良いが、消化吸収までに時間がかかる。これに対して「糖質」は消化吸収されやすく、血糖に早く変換される。特に、多糖類といわれる米飯やパンなどには、タンパク質も多く含まれており、またエネルギーとしての持続性がある。従って、長期間にわたる冬山登山の場合は別として、通常の登山では糖質(炭水化物)を中心とする食事がベターである。・・・マラソン・ランナーも競技前にはモチなどの多糖類を食べる人が多いという。

(3)登山中に大量に汗をかくと、体内の水分とともに塩分やミネラルなどが失われて生理機能を崩してしまい、その結果、筋肉疲労を促進して足がつったり、熱中症を引き起こしやすくなる。従って、特にビタミンB1&E、カルシウム&マグネシウムなどを補給するように心掛けるのが良い。

           今と違って装備も食糧も重かった昔の冬山登山(1964年当時)

 <今と昔との山の食糧比較> 

 山麓でのキャンプと違って、登山の場合には全ての荷物を自分で背負わねばならない。 従って、
①成るべく軽くて嵩張らないもの、②痛んだり腐ったりしにくいもの、③調理にあまり手間暇がかからないこと・・・という3つの条件を満たす食材であることが望ましい。

 かつての登山では、以上の3つの条件を満たす食材を探すのはかなり至難であったが、最近は「フリーズドライ」や「レトルト」といった調理済み食品が手軽に入手出来るようになったことから、山での食事がすっかり様変わりすることになった。・・・軽量化という面から見れば文句のつけようがないのだが、強いて難点を言えば、コンロの着火時間も含めて、余りにも簡単に調理が出来てしまうので、山での食事が何とも味気なくなってしまったことであろうか。

 以下に、昔の登山への郷愁も込めて、今から30~40年ぐらい前までの山の食糧について振り返ってみたいと思う。・・・そこには、現在のような山での味気ない食事を少しでも見直させてくれるような、幾つかのヒントが隠されているようにも思われる。

                 「コシヤマ流・実践山岳食糧講座(1)」

 上の「実践山岳食糧講座」というのは、私が所属する山岳会:アルムクラブが発行していた1967年当時の月報:「アルム」に掲載された記事だが、内容を要約すると以下の通りである。

 『本講座では、登山形態別に「定着生活用」、「縦走用」、「連続登攀用」、更には、それぞれを「夏期」、「冬期」に分類してご説明する』・・・として、まずは、①夏期定着用(夏の涸沢、剣沢辺りでのテント泊を想定)と、②夏期縦走用(1週間程度の南・北アルプス縦走を想定)について解説し、最後に、「私が推薦するベスト献立」を紹介しているが、以下に、当時の夕食を例にしてご説明したいと思う。

                かつての天幕内での炊事風景(1967年当時)

 当時の夕食は定着・縦走用とも、①カレー、②クリームシチュウ、③ロシア・スープ、④豚汁、⑤けんちん汁などが代表的な献立であり、食材が腐りにくい冬山の場合には、これに、⑥おでん、⑦ギョウザ・スープ、⑧キムチ鍋、⑨焼き肉、⑩ハンバーグなどが加わった。

 ①~⑤までのメニュー用の食材については、①人参、②たまねぎ、③じゃがいも、の3種類の野菜と、④保存処理した豚肉又はベーコン・・・が全てに共通した基本材料であった。
 3種類の野菜はやや重たいものの、いずれも痛みにくくて長持ちするので問題なかったが、最も悩ましかったのが「肉」(特に真夏)の保存である。夏の縦走登山の場合には、はじめからブロック状のベーコンを使うことが多かったが、料理に独特の味が付いてしまうこともあって、定着登山などでは、成るべくならば保存処理した生肉を使いたかったからだ。

 ご参考までに夏場の肉の保存法についてご紹介すると、『最もお勧めできるのは、塩が多いか肉が多いかぐらいまで、塩をまぶす方法である。勿論、肉は切り身ではなくてブロックでなければダメ。目的地に着いたらすぐ冷水に漬けて素早くもどすのが秘訣である』
 他には『味噌に漬ける方法があるが、どうしても濃い味噌味が付いてしまうので、トン汁以外にはあまりいただけないのが難点だ』」・・・と書かれている。
 
 調理法については、①~⑤までどれも作り方は同じで、まず肉とニンニクをラードで炒め、これに刻んだ野菜を加えて暫らく煮たあと、カレールー、豚汁:味噌、けんちん汁:醤油とカタクリ粉や、塩・科学調味料などで味を調える。つまり、味付けする材料を変えるだけで、毎晩バラエティーに富んだメニューが楽しめるという訳である。

 主食は炊いた米飯がメインであったが、餅や乾麺、インスタントラーメンなども使った。また、上記以外の副食として、キュウリやキャベツ(時にはトマトも)、海藻などを使ったサラダ、ウルメイワシやみりん干し、高野豆腐、海苔、佃煮・・・などをはじめ、魚ソーセージ、缶詰などがあった。
 なお、冬山の場合には、山麓に行く迄の暖房した部屋や列車内などで気を付ければ、肉類やカマボコ・さつま揚げなどの練り物、ギョウザやシュウマイ・・・などといった食材も使えることから、献立の幅がかなり広がった。

 <食糧の軽量化について>

 次に、「食糧の軽量化」という問題について述べる。
 かつて、私が若くて元気だった頃といえども、山の食糧は成るべくなら軽くて嵩張らないのが望ましかったのは勿論である。しかしながら、縦走登山などは体力訓練だと考えていたことや、その当時からあったアルファ米や乾燥野菜などが余り美味くなかったこともあって、どうしても軽量化したい冬季登攀のような特別なケースを除くと、実際にはそれらの食品を殆んど使用しなかった。
 ・・・それこそ、もし現在のような調理済みのフリーズドライ食品が、その頃にもあったとしたら、多分積極的に使ったことであろうことは間違いないと思う。

 以下の「実践山岳食糧講座(2)」では、アルピニストにとっての「食糧の軽量化」という問題について書いているが、当時は、かなり困難な冬期の縦走登山や岩壁登攀を目指していたことから、私自身、装備と食糧の軽量化に対する関心が非常に高かったように記憶している。

                「コシヤマ流・実践山岳食糧講座(2)」

 まず、「食糧を軽量化する目的」については、「単に重たい荷物を担ぐのが苦痛だから軽量化を図る」のではなく、あくまでも「困難な登攀を成功させるためには山の食糧がどうあるべきか」というテーマとして論じたいとして、以下の通り述べている。

 食糧軽量化の最大の目的は、『如何に少ない食糧で、最も大きな登攀成果をあげ得るのか?という登山に於ける効率性というテーマの追求に他ならない。十分な食糧や装備を持っていけば荷物が増える。そうすれば必然的にザックが重くなり、難しい場所での登攀能力が制約される。
 ・・・しからば、多少腹が減っても、また寒くても我慢する。そうした苦労や我慢の代償として、目的とする登攀を成功させ、自分にとって更に大きな喜びを見い出す。はなはだストイックではあるが、この涙ぐましい行為こそが食糧軽量化に対する基本精神である』、『アルピニズムとは山との闘いであると同時に自分との闘いでもある』と結論づけている。
(写真左;冬の屏風岩東壁を登る)

 記事の末尾に、軽量化の実例として、積雪期(1967.3)の北アルプスで約15日間かけて行った「槍ヶ岳・北鎌尾根~西穂高岳縦走」の際の食糧リスト(当初計画では21日分)が掲載されているが、この時の食糧の総重量は2人分合計で22.5kg。1人1日平均:535gであった。
 ・・・仮に現在のような軽量食品が使えたとすれば、内容自体がずっと良くなることは間違いないが、当時よりも軽量化できたであろう重量は4~5kg程度だったものと考えられる。

                「北鎌尾根~西穂高岳縦走・食糧リスト」

 これを書いた当時の私だが、『欧米人に比べると日本人は、米の飯を腹一杯食わないと力が出ないと言われてきた。だから、先の戦争にも負けたのではないかと思われるが、同じ様に我々も、登山中に腹一杯食わないと満足に動けないようではヨーロッパの優秀なアルピニスト達に勝てるはずがない』と考えた挙句、日常の生活では米飯を食べないようにすると共に、真冬といえども毛布一枚だけで寝るようにしていた。・・・今にして思うと、実に狂気の沙汰としか言いようがない。

・ヒマラヤ登山隊の高所キャンプ用食糧:

 食糧の軽量化というテーマを取り上げたことでもあり、ご参考までに、私が参加した1970年のマカルー登山隊が、高所キャンプでいったいどんな食事をしていたかについて、同行した朝日新聞の特派員が書いた当時の新聞記事をもとにご紹介したいと思う。

                 マカルーC6:最終キャンプでの炊事風景

 『この隊はベビーフードを高所キャンプの食糧のベースにおいた。ところがこれが、ひどく悪評だった。①食べやすい、②カロリーが高い、③消化がよい、④廃棄物がゼロ、⑤味が淡白、⑥調理が簡単、との条件を満たすとして登場したした高所キャンプ食の内容とは・・・。
 粉ミルク、ウエハース、ビスケット、ライスフレーク、米粉、パンフレーク、天然果汁粉末、動物たんぱく粉、野菜マッシュ、栄養めん、それに各種缶入りペーストの離乳食・・・これが主食。
 粉チーズ、バター、コンビーフ・サケ・マグロの缶詰、フルーツ缶などがいわば副食。それに菓子やコーヒー、紅茶。確かに湯さえ沸かせば食べれるものばかり。しかし、腹にこたえるものがない』

 『高所キャンプでは、酸素不足と疲労から「食欲がない」と思ったのがはずれた。カロリー計算はできていても、大人が「美味しい」と思うかどうか。・・・結局、食糧計画が大幅に修正され、ベースキャンプから往復1週間かけて山麓の部落まで買い出し隊が出て、米、ジャガイモ、ヤギ、ニワトリ、卵などが到着した。高所キャンプでは沸点が低く、ナマ煮えになるため、BCの圧力ガマで料理したのち荷揚げされた』
 ・・・この記事にもあるように、さすがにベビーフードには参ったが、高所キャンプにいても予想外の食欲があり、荷揚げされて来た「羊肉」を久し振りに食べた時の感激が今でも記憶に残っている。

 余談になるが、ヒマラヤ登山において世界で初めてプロパンガスを使用したのは、上記の日本山岳会東海支部・マカルー遠征隊であった。今から約40年前のことである。
 実はその時の燃料担当が私であり、酸素が地上の1/3になる8千米でも燃えるコンロや、当時はまだ市販されていなかったアルミボンベをメーカーに頼んで無償で開発して貰ったりした。

 現地で一番参ったのは、プロパンガスの不足に悩まされたことだ。・・・というのは、従来の灯油やガソリン・コンロに比べて余りにも便利なので、調理をしてくれるシェルパたちが事前計画量を遥かにオーバーしてガスを使ってしまい、そのため、最後の頃には燃料不足に陥ってしまったのである。
(現在のようなブタンガスではなく、更に低温特性に優れた純プロパンを使用)
   写真はマカルーのキャンプ5にて

  <最近の軽量化食品と山での食事>

 現在、既にアルピニストとは言い難くなった私にとって、山の食糧を軽量化したい最大の理由は、ひとえに「重たい荷物を担ぐのがイヤだから」に過ぎないが、一方、「成るべく楽をしたいけれども、やはり少しでも美味いものが食べたい」というのが本音でもある。
            写真・上はいずれも最近の「フリーズドライ食品」の代表例

 「フリーズドライ食品」とは、マイナス40℃の真空の中で凍結乾燥加工したもので、たんぱく質やビタミンなどの栄養素も損なわれず、軽くてコンパクトなのが特長である。
 昔から「アルファ米」とか「乾燥野菜」などはあったが、最近のものは″調理済み食品″が多くなり、種類も豊富で味も良くなった。ただし、販売先が限定され、値段がかなり高いのが難点といえる。

 これに対して、レトルト・カレーなどに代表される「レトルトパウチ」といわれるタイプのインスタント食品がある。今や家庭でも日常的に食べられるようになったことから、フリーズドライ食品に比べるとやや重いものの、スーパーなどで手軽に入手でき、価格的にも格段に安い。

 ・フリーズドライとレトルト食品の比較:

 それでは、昔から山の食事の定番ともいえる「カレーライス」を実例として、「フリーズドライ」と「レトルト」のどちらが山の食糧としてお勧めなのかを比較検討してみたいと思う。
 左が「レトルト・カレー」:(明治製菓)200g・272Kcal、右が「フリーズドライ・カレー」:(アマノフーズ)29g・133Kcalである。
 ライスは「アルファ米」:(尾西食品)100g(出来上がり260g)366Kcalとした。

 レトルト・カレーについては特にご説明の必要がないと思うので、以下に、「尾西の白米」というアルファ米と、「瞬間美食」という牛肉やローストオニオンなどが入ったビーフカレーを試食してみる。



 アルファ米は、袋に160mlの熱湯を注いで15分。カレーは熱湯120mlを注いで軽くまぜるだけで約10秒で出来上がった。これに、「たまごスープ」(ジフィーズ)7.5g・30Kcalを付けた。
 ・・・アルファ米は昔のものに比べると、独特の臭いもなくまずまず。ただし、美味さでは、レトルトの「サトウのごはん」:(佐藤食品)200g・272Kcalには敵うべくもない。また、カレーは思った以上に”普通の出来栄え″ではあったが、これまたレトルトの「銀座カリー」には遠く及ばない。

 つまりは、「フリーズドライ:129g」対「レトルト:400g」という重さの違いをとるか、味にこだわるかということになる訳だが、数日間の登山ならばレトルト(値段は約1/3)の方を私は選択したい。
(一方、数日間のことならば、多少不味くても我慢するという考え方も勿論あるとは思うが・・・)

 ・朝・夕食用のお勧め食材例:



 上の食品は「朝飯用」の食材である。・・・登山では、1日の行動を前にした朝飯の重要性は今さら言うまでもない。ただし、早朝から食欲がある人など少ないはずで、そのため「オジヤ」とか「ラーメン」などといった食べやすいものがお勧めである。また、やや重いのが難点ではあるが、それに「餅」を入れたり、「雑煮」にすれば更に腹持ちが良い。



 左は「オジヤ」用、右が「丼ぶり」用の食材である。・・・既にフリーズドライとレトルトの比較をしたが、「アルファ米」についてはオジヤ用に使うことをお勧めする。また、米飯として食べるならば、少々重くてもレトルトにすべきであると思う。(実際に、長期間の登山ではアルファ米は嫌になる)

 


 次に、所謂「オカズ」だが、多少なりと食べ応え感を味わいたければ、真空パック(イカ飯、シューマイなど)や缶詰類になる。・・・というのも、最近は肉や魚類の加工品の殆んどが「要冷蔵」となってしまい、常温保存がきく好適な食材が余りないからだ。その点、乾燥食品の「海藻サラダ」などは結構お勧めである。
 なお、「10℃以下で要冷蔵」と書かれた真空パック食品を、実際に何回か試食してみた所、1週間程度であれば常温保存でも特に問題なかった。皆さんも自己責任でぜひ一度試してみて下さい。


 スープ類だが、粉末タイプのものからフリーズドライまで、かなり幅広い食材がある。また、味噌汁やコンソメなどはオジヤの味付け用としても使える。その他、お茶類(コーヒー、紅茶、緑茶、昆布茶など)は多目に持参するのが良い。

 ・南米・アコンカグア登山の食糧:
 
 最後に、2011年:南米・アコンカグア登山の時の食糧リスト(登山期間15日:高所キャンプ用3日分、ベースキャンプ用12日分)をご参考までにご紹介する。

                   「アコンカグア登山・食糧リスト」

         アコンカグアBCでの食事(シューマイ、ネギ豚炒飯、焼き鳥缶詰など)

             次回:「山登りを考える(12):山の食糧(2)」に続く
   

# by masaok15 | 2012-05-21 16:04 | 山登りを考える

           新緑の樹林越しに赤岳・阿弥陀岳・権現岳を望む(5月14日撮影)

 4月中旬から約1カ月間、蓼科に滞在した。・・・この間、友人達と北アルプス登山や山麓トレッキング、お花見や山菜狩りなど、春の信州を楽しんだが、これまでのブログに掲載しなかった4月末から5月連休後にかけての「蓼科の春」をご紹介したいと思う。

  <八子ケ峰に登る>


         八子ケ峰山頂直下;ほぼ同じ場所の(左)2月末・(右)4月末の景色
                   八子ケ峰の稜線から蓼科山を望む


                雪面に残る鹿の足跡と樹皮を食べられた木


               増えすぎたニホンジカによる食害が拡がっていた
                      天然記念物のニホンカモシカ


                      山から下りてフキノトウを収穫

    <八ケ岳山麓の春>
                   一面黄色く染まったタンポポの群落


          オオイヌフグリ                           ツクシ


          タンポポの綿毛                       オドリコソウ
                    八ケ岳山麓の春の里山風景


                            あんず畑


                     村のあちこちにまだ桜が咲く


                     路傍の道祖神とボケの花
                 秋の名残りを感じさせる八ケ岳山麓の田圃


                      芹ケ澤公園の桜とつつじ


                       北山村に咲くつつじ
                       農家の庭に泳ぐ鯉のぼり

    <近くの友人宅を訪ねる>


         HKご夫妻と一緒に同じ東急リゾート内にあるODさんの別荘を訪ねる

 ODさんは東京で出版社を経営しており、HK氏とは趣味の音楽仲間。・・・ODさんの会社が発行している月刊誌には、これまでに何回か私の旅の記事を掲載して頂いている。
               ODシェフが腕をふるう鉄板焼きをご馳走になった
                   桜が咲く白樺湖畔から蓼科山を望む   
           女神湖近くでITさんが経営するペンション:ベルフォーレを訪問

 ITさんとは、同じ山と旅を趣味としており、数年前、私が中国・二姑娘山に登る際にアドバイスを頂いて以来、情報交換したり時々お会いしたりしている。皆さんもペンションをぜひご利用ください。
                     「ペンション・ベルフォーレ」


                    女神湖畔の咲残りの水芭蕉


                 白樺の木々にも新緑が芽生え始めていた
               女神湖畔の白樺越しに見た蓼科山(5月14日撮影)

# by masaok15 | 2012-05-16 10:24 | 蓼科便り

 5月連休が終わった所で、名古屋からONさん、IUさんのお2人を招いて蓼科に参集した。OMさんが陶芸家のONさんに頼んで茶道具一式を作陶して貰った返礼として企画されたものだが、メイン・イベントの茶懐石を始め、お花見、温泉、ゴルフ、バーベキュー、山菜狩り・・・と盛り沢山な楽しい集いとなった。

  <第1日目>
 5月7日の昼過ぎに蓼科湖の近くにある蓼科山・聖光寺に集合。ちょうど満開の時期を迎えていた千本桜のお花見を楽しんだ。IU氏とは、岐阜公園以来ほぼ1カ月振りとなるお花見だった。


           例年とほぼ同じ5月連休の終わりに桜の満開を迎えた聖光寺



 聖光寺でお花見をしたあと、信州蕎麦を食べてから近くの温泉に入り、OMさんの別荘:「輝」に移動してバーベキュー・パーティ。・・・早々と16時過ぎに始めたのだが、暗くなったあとも部屋に戻っての酒宴が延々と続き、結局のところ終宴はまたまた深夜に及んでしまった。

                   OM別荘の庭でバーベキュー・パーティ






              暗くなったあとは部屋に戻っての酒宴が深夜まで続いた

  <第2日目>
 2日目は朝から蓼科東急GCでゴルフ。好天に恵まれた絶好のコンディションながら、ひどく難しいグリーンに悩まされた。ON・IU両氏とは今月末に名古屋での本格決戦を控えた前哨戦でもあった。

                  蓼科山をバックにして蓼科東急GCにて

 ゴルフ終了後、私がマンション敷地内に10年掛かりで造った庭園にご案内してから、裏山のカラマツ林で山菜狩りをした。既にフキノトウが終わってワラビにはまだ少し早い時期だが、ゼンマイ、タラの芽、コシアブラを収穫してからOM別荘に移動。・・・いよいよ今回のメインイベントである茶会となる。

              新緑が芽吹き始めた東急リゾート内のカラマツ林




              ゴルフのあと、別荘内の裏山でゼンマイを大量に収穫
                     今晩のオカズ用にタラの芽も


                       貴重なコシアブラも発見
             夕方からは、OM夫人心づくしの豪華・茶懐石をいただく





             この日に収穫した春の山菜もさっそく天ぷらにしていただく  
         食事のあとは今回のメイン・イベント:ONさん作陶の茶器を使った茶会




             ONさんの陶器は今や名古屋市長賞を受賞するほど・・・
               千利休も欲しがりそうな「善生」作の抹茶茶碗

# by masaok15 | 2012-05-13 18:07 | 蓼科便り

 5月10日に発売された文藝春秋・6月号の「同級生交歓」というグラビア記事に、高等学校時代の友人達と4人で登場しましたので以下にご紹介します。

    東京練馬区・石神井公園三宝寺池にて(撮影 本社・白澤正)
                                 *文章をクリックすると拡大画面になります 
                                     
 月刊「文藝春秋」の「同級生交歓」というグラビア記事は、昭和31年(1956年)から連載が始まったというから、今年で何と56年目を迎える。この間に登場した同級生は約3000組。 ・・・特に、多くのサラリーマンの方達がこの記事を見て、自分の先輩・後輩や知人たちの意外な交友関係を知ったという人も多いのではないかと思う。

 今回の記事は、文藝春秋社から三菱商事・元副社長の上野征夫氏に話があって、われわれ3人が誘われたものだが、登場する人物の殆んどが現役組のようなので、既にリタイアして趣味の世界に生きている私が加わることについては、正直のところ悩ましくもあった。
 結局、肩書は「登山家」、服装もノーネクタイで登場させて貰うこととし、4月4日に大阪の大谷氏と名古屋の私、そして東京在住の上野・金指両氏の4人が石神井公園に集まって文春の写真取材を受けることになった。            「久し振りの同級生交歓」

 なお、文藝春秋6月号には、「最善の医療」という大型企画があり、「何のための医療、何のための延命か」「闘うがん、闘わないがん」「脳梗塞で死なない七カ条」・・・といった興味深い記事が掲載されているので、できれば書店にて購入の上、同誌の売り上げ向上に貢献して頂ければ幸いです。
            

# by masaok15 | 2012-05-10 10:16 | 日常全般

< 前のページ  次のページ >